トーマス・ヒルとその家族

2016.07.25

どんな分野においても、開拓精神に満ちた素晴らしい企業のみが草分けとして認めてもらえるものです。ルイ・ヴィトン、フェラーリ...この広い世界のなかで成功をおさめる有名ブランドの多くがその分野の「先駆者」として認められていますが、サンスペルもまさにそのブランドのひとつです。今や国際的な高級服飾ブランドとなったサンスペルの起源は1860年ノッティンガムに誕生したトーマス・ヒル社に遡ります。

トーマス・ヒルは仕事に夢中で 、自分の目指すものは新境地を求めて熱狂するヴィクトリア朝の大英帝国にぴったりだという自信に溢れていました。折しも産業革命の最中です。人々の生活も大きく揺り動かされていました。トーマス・ヒルはこのチャンスを逃さず、ニューディゲイト地区に工場を設立して耐久性に優れ快適な メンズアンダーウェアの生産を始めたのです。

けれど創業者トーマスは、まさか自分が始めた事業が息子たち、そして孫たちの代へと長年にわたり栄華を誇ることになるとは思ってもみなかったでしょう。アンダーウェアを全世界に流通させる方法の変革に立会い、肌着にふさわしい最高級の素材ライルコットンをブランドとして確立させたのち、トーマス・ヒルは会社の所有権を彼の息子、トーマス=アーサー・ヒルに譲渡します。

この若きヒル氏は、自社の成長著しいメンズウェアのファンたちをがっかりさせるような人では全くありませんでした。彼は堅実なやり方でライルコットンのシングレットやチュニック、アンダーシャツを開発しただけはなく、それに加えて女性や子ども用のアンダーウェアも始めたのです。そして「トーマス・ヒル」のアンダーウェアをマレーシア、インド、中国といったこれからの成長が期待出来る市場へ輸出する機会にも恵まれました。その製品には、遠い極東の地で目に留めてもらえるように洗練された刺繍が施されていたそうです。

数世代が過ぎ、生産拠点を長く馴染んだノッティンガムから現在のロングイートンに移転したのはもう一人のヒル氏、トーマス=アーチボルド=モンゴメリです。その後も多くの「ヒル氏」たちがその精神を引き継ぎ、それぞれ綿密かつ革新的な方法でデザインや素材開発、生産に貢献しました。例えば、ジョン・ヒルは布帛のボクサーショーツをアメリカから持ち帰り英国に浸透させただけでなく、高品質でソフトなコットンを素材に選んで、デザインを改良しました。

そして、地元の伝統的なレース産業のノウハウを用いたワープニット素材Q75を開発したのは創業者の孫にあたるピーター・ヒルです。Q75は現在でもサンスペルの自社開発素材のなかで確固とした地位を築いています。現在、創業者の一家はもうサンスペルの経営には関わってはいません。けれど、ウェアラブルで質のよいベーシッククローズを愛する人々に何世代にも渡って支持されるブランドになった背景に、創業者一家がのこした軌跡をはっきり見ることができます。

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